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小学生が書いた多様性の絵本!『みんな えがおになれますように』

小学生が書いた多様性の絵本!『みんな えがおになれますように』

累計10万部のベストセラー絵本『しょうがっこうがだいすき』(Gakken)の作者・ういさん(10歳)の2作目となる今作は、多様性がテーマ。テレビ番組をきっかけにトランスジェンダーの方々の存在を知ったういさんが、ロバート キャンベルさんやオードリー・タンさんなど当事者の方々にインタビューし、絵本にまとめたものです。

今回はそんな、現役小学生作家のういさんと、彼女のお母様にお話を伺いました。お母様の「得意なことを伸ばす子育て」のお話も必見です。


ういさん
2010年5月生まれの現在10歳。三姉妹の長女。父親が2017年に『20代に伝えたい50のこと』(ダイヤモンド社)を出版したことをきっかけに、本を書き始める。2018年小学2年の時に『しょうがっこうがだいすき』(Gakken)を自費出版、2019年に絵本として出版し、10万部を超えるベストセラーに。中国版も発売。今作はういさんの2作目となる。
日経DUAL記事

トランスジェンダ―についてのテレビ番組と自由研究がきっかけで、絵本を出版!

__この本を書こうとおもったきっかけを教えてください

小学校3年生(9歳)の夏休み、心と体が入れ替わったらというテーマの番組をEテレで見て、「本当にそういう人がいるのか」と疑問を持ちました。そこで、夏の自由研究のテーマとして取り上げたことがきっかけです。調べたら、子ども向けの本が少なかったので、トランスジェンダーの方たちにインタビューも行い、小学生にも伝わるような本を作りたいと思いました。

「普通」という言葉で傷つく人もいるということ

__取材を通して印象に残ったことはありますか?

トランスジェンダーの人が傷つく言葉があるということです。ある人は「普通」っていう言葉が気になるし、傷つくことがあると言っていました。これまで何気なく使っていた言葉だったので、「普通」は何で嫌なんだろうと思いました。でも、たとえばごはんの量の「普通」のように、人それぞれでいいことを「こういうもの」って決めつけるのはよくないなと考えました。「あなたの普通は何?」と聞かれてもうまく答えられないですよね。

「多様性」は悪いことじゃない。小学生にもぜひ知ってほしい!

__多様性ってどういうことだと思いますか?

オードリー・タンさんは「性別は虹と同じだよ」って教えてくれました。虹は日本では7色だと言われるけど、海外では8色だと思っている国もある。それは赤、青、紫みたいに分かれていないグラデーションだから。赤は赤でもいろんな赤があって、薄いピンクみたいな赤もあれば、濃い赤、明るい赤、オレンジに近い赤もある。

それと同じで性別も男女がキッパリと分かれない、グラデーションがある、って。私はそれは性別だけじゃなくて、個性も同じで二つとないんだと思いました。いろんな人がいてそれぞれ違っていいんだと思います。

__小学生たちに知ってほしいことはありますか?

トランスジェンダーやLGBTQ+っていう人がいること。そして、世界にはいろんな人がいるということを知ってほしいです。今回インタビューをさせてもらって、小学生くらいからそのことで悲しい思いをしたり、いじめや差別を受けてきた。でも環境さえよければ、悲しい思いをしないと言うお話も聞きました。

だから、私たちが小学生のころから、トランスジェンダーやLGBTQ+のことを知っておけば、彼らを傷つけることもないし、受け入れられるようになるのかなと。そして、私たちの身近にそういう人がいるかもしれないと考えることも大事なんじゃないかなって思います。

__ういさんが今興味があることは何ですか?

戦争や広島の原爆について興味があります。去年の読書感想文で『禎子の千羽鶴』(Gakken)という広島で原爆を受けた女の子の話を読んで、今年の自由研究も沖縄についてまとめました。今は戦争について調べたり、大人の人たちに話を聞いたりしています。

以下、ういさんのお母様にお話を伺いました。

社会の小さな問題にも素通りしない

__子育てにおいて大事にしていることはどんなことですか?

当事者意識を持つことを大事にしています。「常に自分で考えて行動できる子になってほしい」という思いから、私(I)ではなくて、あなたのことも私のこととしてとらえられるように、私たち(We:うい)と名付けました。

日々の生活では、社会の小さな課題を素通りしないよう意識しています。たとえば、道を歩いていてホームレスの人がいたら、子どもはジーっと見ますよね。「あの人どうしたの? なんでお洋服がボロボロなの?」と。そこで私が「いろんな理由でおうちがないんだよ」という話をして、「もっと知りたい」となったらいっしょに調べたり、団体の方にアポイントをとって話を聞きにいったりします。

__調べて終わりという人が多いと思うのですが、実際にお話を聞きにいく行動力は素晴らしいですね!

夫婦とも社会問題に興味がある方なので、調べたりアポイントをとったりすることにあまり抵抗がないのかもしれません。でも、今はSNSなどもあって連絡を取りやすいですし、「子どもが話を聞きたい」と言えば、大抵の団体が時間を作ってくださいます。私たち両親が知っていることは限界があるので、親が天井にならないためにも、いろんな人に会って世界を広げてほしいなと思っています。

誰かに会って直接話を聞くことで世界が広がる

__ういさんには、わからないことを調べる際にどういったアドバイスをしていますか?

「ネットに出ている情報がすべてではないよ」という話はよくしています。そこにはまちがっている情報もあるということも。だから、その先の世界はだれかに会って直接話を聞くことで広がるんだよと伝えています。

学校の宿題の「調べ学習」も娘は大好きなのですが、子どもだと自分のこだわりや思い込みもあるので、偏ってしまう場合もあります。そんなときは「これ知ってる?」「こんな疑問もあるんじゃない?」などとさりげなく補うようにしています。

疑問をもつことは素晴らしい。大事なのは「聞きやすい親子関係」であること

__幼児期特有の「なんで?」や「自分でやってみたい!」という要望にはどのように向き合っていましたか?

「なんで?なんで?」の時期は、面倒くさがらず、ひとつひとつ答えていました。「お母さんも知らないから調べてみようね」とか、時間がないときは「今時間がないからあと5分後に話すね」という風に。「そんなことどうでもいいよ」とあしらわないようにしていました。

それは、「疑問をもつことはいいことだ」と小さい頃から思ってもらいたかったので、聞きやすい関係性を意識して作っています。
うちはういが長女の3人姉妹なので、一度に3人から聞かれると困ることもありますが、できるだけ個々に時間をとって「終わったら次は〇〇ちゃんね」と順番に。1日5分でも10分でも時間をとるようにすると、ちょっとした変化にも気づけるのではと思います。

__3姉妹の長女だと、ういさんは我慢することも多かったのでは?

3人いても「順番に平等に」を心がけています。「お姉ちゃんなんだから!」「女の子だから!」は一切言わないようにしています。下の子はまだ小さいので私に甘えたりぐずったりするときもありますが、誰か一人が我慢することがないように、「今お姉ちゃんもこう思っているよ」「この前はあなたの番だったから今度はお姉ちゃんの番だよ」などと平等に接するよう夫婦でもよく話しています。

__親子で信頼関係を築くために大切なことは何でしょう?

問題があったらなんでも話してくれる関係性が理想です。学校の友達関係で悩んでいるときは、何が嫌だったかを聞き、「どうやって解決したらいいと思う?」と話し合って試してみます。どんなに小さな困りごとでも無下にせず、たとえすぐに思い通りにならなくても「必ず問題には解決方法があるに違いない」と思ってほしいですね。

学校はそのトライ&エラーのトレーニングの場だと思っています。子どもからの話はある程度、何を聞いても動じないよう想定していますが、たまに想像を超えることがあると「えーっ!!」と動じてしまうこともあります。そんなときは「さっきはびっくりしちゃったけど、よくわかるよ」と仕切りなおしています。

気持ちを自分の言葉で伝える「親子交換ノート」のすすめ

__お子さんを叱ることや「言い過ぎたな……」と思うこともあるのでしょうか?

もちろんあります。そんなときは素直に謝ります。そこは夫婦間でも親子間でも同じです。

あとは、小1から母娘で親子交換ノートを続けていて、何かあったらそこに書くようにしています。あるときは「お父さんの今朝の言い方、本当に嫌だった」と書いてあったら、「次はもう少しいい言葉で言うようお父さんに伝えるね」と返したり。特にノルマにはしていませんが、何かうれしいことや嫌なことがあったとき、がんばったときに書くことが多いようです。気持ちが落ち着いてから改めて言葉にできることもあるので、親子交換ノートはおすすめです。

子どもが認めてほしいことを褒める

__お子さんたちの得意なことを伸ばすためにどんな工夫をしていますか?

子どもがやってみたい、興味があることはとことんやってみます。逆に、何か不得意なことは、無理に追及せず違う方法で補えばいいかなと考えています。
例えば、スキップが苦手だとしましょう。無理に「練習しよう」とは言いません。スキップできなくても生きていけますし。その分、文章を書いたり考えたりするのが好きであれば、そこを伸ばしていけたらと思っています。

あとは、親の基準で褒めず、子どもが認めてほしいことを褒めるよう意識しています。
姉妹や他人とも比べません。たとえば、「今回のテスト頑張ったから75点取れたんだよ!」と喜んでもってきたら「すごいね。よく頑張ったね!」と褒める。以前の自分よりよくできて本人が満足できればそれでいいし、誰かの顔色を見ながら生きてほしくないと思っています。

__最後に今回の本の出版で感じたことをお聞かせください。

トランスジェンダーの存在は知っていましたが、ういが取材をしてくれたことで当事者の方々の思いをより具体的に感じることができました。娘の率直な質問に対して、しっかりと向き合ってくれた皆さんにも感謝しています。

また、彼女のインタビューを通して、トランスジェンダーやLGBTQ+のことを知っているだけで変われる社会があるのだということも分かりました。この本が、いろんな人の最初の一歩になってもらえたら嬉しいです。
※お母さまの著書『怒らなくても「自分からやる子」が育つ親の言動〇△×』(サンマーク出版)も発売中。

著者プロフィール

ライター・エディター。出版社にて女性誌の編集を経て、現在はフリーランスで女性誌やライフスタイル誌、ママ向けのweb媒体などで執筆やディレクションを手がけている。1児の母。2015年に保育士資格取得。

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