「子育ての孤独」から抜け出すには?

「子育ての孤独」から抜け出すには?

“ワンオペ育児”や“アウェイ育児”という言葉が生まれている昨今、孤独な子育てが問題視されています。
ニュースで流れる親子間の痛ましい事件も、その背後に孤立化が隠れていることが少なくありません。
そこで今回は、育児の孤独について掘り下げ、できる改善策を考えていきたいと思います。

日経DUAL記事

日本における“孤独な子育て”の実態

今年の8月、小学生以下の子どもがいる保護者1007名を対象に、株式会社コミットグロースが行った「子育ての悩み」に関するアンケート結果からは孤独になりやすい今の日本の育児環境が見えてきます。 

たとえば、現在の置かれた環境について、当てはまるものをすべて回答してもらったところ、

⚫︎ 自分が生まれ育った市区町村とは異なる地域で子育てをしている(29.7%)
⚫︎ ママ友・パパ友がいない(23.7%)
⚫︎ 1人で育児も家事も行っている(20.8%)
⚫︎ 近所との付き合いがない状態で子育てをしている(15.8%)
⚫︎ パートナーの協力が得られない(15.1%)
⚫︎ 子育てに関するさまざまな悩みを相談する相手がいない(12.4%)
⚫︎ 親族の協力が得られない(12.1%)
⚫︎ 話し相手が子どもしかいない(8.1%)

という結果が得られました。

株式会社コミットグロースが行った「子育ての悩み」に関するアンケート結果

土地的に孤立しがちな環境だったり(アウェイ育児)、1人で回さなくてはいけないことでの孤独だったりと(ワンオペ育児)、状況の異なる”孤独“が見えてきますが、おそらくは1人でいくつもの悪環境が重なってしまっているケースも多いのではと推測しています。

さらには、「育児の悩みを相談できる人はいますか?」という問いでは、「はい」と答えた方が76.5%いるものの、残りの23.5%は相談相手がいない状況が浮き彫りになりました。

育児の悩みを相談できる人はいますか?

この結果を「大半の人が相談できている」と取ってしまうのは状況を軽んじた見方であって、だれにも相談できずにいる人が4人に1人もいるという現状を深刻なこととして捉えていく必要があると思います。

パートナーの協力が得られずに孤独を感じている人も

上記のデータの中でも、とくに問題視すべきは、

⚫︎ 1人で育児も家事も行っている
⚫︎ パートナーの協力が得られない
⚫︎ 話し相手が子どもしかいない

だと感じています。「パートナーの協力が得られない」となっていますが、私の相談室の事例を見ても、実際には「夫が非協力的」というパターンが圧倒的と思われます。

本来なら一番助け合うべき存在である配偶者に結果的に苦しめられてしまっている分、よけいに孤独に感じられるところは多分にある気がします。

当然ながら、男女は違うものですし、それぞれ得手不得手はあるものです。そして育児という切り口で言えば、女性の方が向いているとも思います。しかし、昨今の「夫が育児や家事をやろうとしない」という問題は、得手不得手以上に、昔ながらの日本の概念(女性が家事・育児をやるもの)が影響しているように感じています。実際に私が受ける育児相談でも、その人が幼少期にどういう環境で育ったかが、今の思想や発想に大きく関与していることをたびたび目の当たりにします。

その発想が今の時代に合っていないことに気づき、自ら反面教師になって自己改革に努める方もいらっしゃいますが(例:「自分の父親が権威を振りかざしていて、すごくイヤだったから、自分は改めたい」など)、ママ側からの話を聞くと、気づいていないパパも多い印象です。

この記事をたまたまでも読んでくださったパパがいたら、「自分が妻を孤独にしていないか」という問いかけをぜひしてほしいと思います。子どもと同列になって、“やってもらう側”になっていてはいけません!

さらには、今自分がしている子育てが、これからの日本にフィットしているのかを見直すことも重要だと思います。男女それぞれの特徴はありつつも、「男の子なのだから」「女の子なのだから」というステレオタイプに固執せずに、将来的に家でも外でも働けるバランスを身につけさせていくことはとても大切になってきます。

孤独感の対処法①~話す相手・場所を得る

ここからは、育児の孤独をどう解消していくかを見ていきましょう。

まず大事なのは、だれかと話す機会を持とうとすることです。「話したところで、悩み自体はなくならならない」と思っている方もいるかもしれません。たしかに、子どもが言うことを聞かずに困っているときに、そのことを話して、すぐに子どもが言うことを聞くようになるかと言えば、ノーでしょう。しかし、話したことで、「あるよね」「わかる~」と受け止めてもらえると気持ちが軽くなる効果はたしかにあって、それにより子どもへの接し方がいい方向へ変化することも多く、その結果、「最近聞き分けがよくなってきた」ということも! このような遠隔的な変化は育児では非常によくあることなので、だれかに話すことでの効果はあなどれません。

私のところにご相談に見える方も、「悩みを言葉にすることで気持ちがスッキリした」とおっしゃる方はとても多いです。言語化することで、いったん悩みが外に投げ出されるので、そこで頭が整理しやすくなるのだそうです。

ならばだれに話すかという点ですが、上でご紹介した調査では、

⚫︎ 同じ月齢・年齢の子どもを持つ近所のママ友・パパ友(45.3%)
⚫︎ パートナーや義母実母などの家族(31.9%)
⚫︎ 同じ月齢・年齢の子どもを持つインターネット上の掲示板で繋がるママ友・パパ友(19.0%)
⚫︎ 保育園・幼稚園・小学校などの先生(19.0%)
⚫︎ 自分の子どもの月齢・年齢より大きい子どもを持つ近所の先輩ママ友・パパ友(18.8%)

という結果が出ています。

約半数くらいの人が、自分の子どもの友だちのママ・パパを挙げていることからも、やはり同じ時代に同じ場所で育児をしている”戦友“のような存在は重要だということがわかります。

一方で、今の時代は、人とのつながりはご近所さんだけではないので、ネット上のコミュニティーも候補の1つとして上がってくると思います。上記の調査を行ったコミットクローズ社が運営する「てつなぎ広場(https://tetsunagi-p.com/)」というサービスも、子育て中の思いを投稿することで、似たような境遇の人たちと知り合い、その中で共感したり励ましたりしながら、脱・孤立を目指していきます。場所や時間を気にせずに気持ちを吐露できるという点でも、このようなネットを活かしたつながりもおすすめです。

孤独感の対処法①~話す相手・場所を得る

孤独感の対処法②~外に委ねる

次に見ていきたいのは、負担軽減についてです。私がこれまでお話ししてきた多くのママの相談事例を踏まえると、孤高に奮闘されている方の多くは孤独であると同時に、1人でなにもかもこなしている忙しい身であることがほとんどです。そういう状況では、背負っている仕事量を軽減していくことが状況の改善につながることは多いものです。

代表的なものとして、ファミリーサポート(ファミサポ)が挙げられます。子育てをサポートしてもらいたい“依頼会員”と、サポートができる”提供会員“を行政のコーディネーターがつないでくれるサービスです。国の「地域子ども・子育て支援事業」の一環でもあるので、安心してお願いしやすいサービスの1つと言えます。
ファミサポは子どもの預かりや送迎など、子ども関連の支援サービスですが、家事のサポートとして、今は数多くのマッチングサイトがあります。

ワンオペで育児や家事をしている人は、すでに自分の中での時短や工夫をやりつくしていると思うので、ここでは外部に委託することを提案しました。どのサービスであっても、人と人とのつながりなので、もちろん相性はあると思いますが、試す前にシャッターを下ろしてしまうのはもったいないので、まずは一回でも試してみてはいかがでしょうか。
https://www.shinga-farm.com/parenting/workingmother/finishing_technic/

実際に利用している方からは、家事や育児を手伝ってもらいながらおしゃべりをすることもよくあり、それがいいリフレッシュになっているとも聞きます。とくに子どもが小さいうちは、「大人と話したい!」という孤独感に悩む方は多いので、合う人を見つけられれば、色々な意味で頼もしい助っ人になってくれると思います。
できれば、産休が空ける復職前、2人目の産休中など、「今よりも子育てがいっぱいいっぱいになりそうなこと」が予測される前に、外注先の目星をつけておくことをおすすめします。

孤独感の対処法③~自分で自分をしばらない

ここまでおすすめの対処法として、「だれかと話す」「外部に助けてもらう」の2つをお伝えしましたが、どちらも、「なるほど!」というよりは、「だよね」という内容だったかもしれません。

しかしながら、
「そうだよねとは思いつつ、踏み出せない自分もいて……」

このように自分の心の中でのひっかかりがあって、そこに苦しんいる方は意外と多いように思います。だれかに相談→「したくない」、外部サービス→「お願いしたくない」となんらかの思いが前に出てきてしまい、それによりさらに孤立化してしまうのです。

「頼ってはいけない」
「自分の家のことなのだから」
「周りからできない母親だと思われる」
「自分でできることをお金を使ってお願いしてはいけない」
「悩みを打ち明けたところでなにも解決しない」
「相手に弱みを見せたくない」
「よけいに面倒なことになる」

これらはすべて、私が実際に相談の中でお聞きしてきたママたちの本音です。1人で対処しきれないほどに抱えているのに、自分の中のせめぎ合いの結果、やっぱり全部1人で請け負うことになってしまう……。自分が自分に押し切られる形で動けなくなってしまっている方は多いように思います。

夫婦で“3歳児神話”から脱却することも大切!

この漠然とした、それでいてとてつもなく圧迫感のある壁は、以前の日本で当たり前だった“3歳児神話”的な発想が影響しているのではないかと感じています。「男は外で働き、女は家事と育児をするもの」「3歳まではママが子育てに専念すべき」「そうしないと、その後の子どもの成長に悪影響を及ぼす」などという刷り込みが、今もなお心に残っていて、それがパパを受動的にしてしまい、ママには育児や家事を手放すことへの罪悪感をもたらしている、そんな気がしています。ちなみに、3歳児神話は、1998年に厚生白書で、「合理的な根拠は認められない」とされています。子どもが愛ある環境で育てられることは非常に大切ですが、それをママだけに委ねるというのは偏っているということですね。

今は産後も仕事をする女性が8割近い時代ですから、夫婦で働き、夫婦で育てるという方向へシフトしなければいけないのに、過去の刷り込みが鎮座したままで、結果的にママが仕事も育児も家事もやっているというご家庭は少なくありません。

パパが時代の変化に気づくことはもちろんのこと、ママ側も自分で自分をしばってしまっているところはあると思うので、そこを少しずつでも解放していきたいものです。「弱音を吐いたっていいじゃない」「頼んだっていいじゃない」という解放ですね。

私も日々カウンセリングを提供する身ですので、心への刷り込みがいかに根強いものかは痛感しています。「これは困った刷り込みだ」とわかっていても、ポイと捨てられるほど簡単ではありません。ただ、変えようとしなければ変わらないのも事実で、ママが1人で抱え込まざるをえない空気を、よりバランスのよいものに変えていく意識は1人1人が持っていきたいものです。

今、育児の孤独を感じている方は、ぜひこれを機に今まで取り入れてこなかった新たな行動に着手してみてほしいと思います。声をかけてみる、外に出かけてみる、オンラインでつながってみる、家事を頼んでみる……。新たな行動パターンは、必ずやなにか変化をもたらしてくれるはずです。

著者プロフィール

育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:megumi-sato.com

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