「自分の好きが分からない!」子どもたちの悩みと向き合う、 吉井奈々さんにインタビュー

「自分の好きが分からない!」子どもたちの悩みと向き合う、 吉井奈々さんにインタビュー

学生時代に不登校になった経験から、色々な世界で幸せに生きているオトナと出会い、楽に楽しく生きられるようになったという吉井さん。
現在は、コミュニケーション講師・心理セラピストとして、さまざまなメディアで活躍中。全国200校以上の小中学校でも講演をされています。
そんな吉井さんの実体験に裏打ちされた言葉や考え方をまとめた新刊『未熟なまま輝く キミへ伝えたい 自分を大切にする生き方・考え方』(KADOKAWA)が発売ということで、お話を伺いました。

プロフィール
吉井奈々さん(コミュニケーション講師・心理セラピスト)
元男性でありながら、女性として結婚。心理療法を学び、現在はコミュニケーション講師として活躍。筑波大学や早稲田大学を始めとする大学で教鞭をとり、全国200校を超える小中学校でも講演を行っている。NHK eテレ 教育番組 Rの法則出演。著書も累計10万部を誇り、新刊『未熟なまま輝く キミへ伝えたい 自分を大切にする生き方・考え方』(KADOKAWA)が発売中。https://www.amazon.co.jp/dp/4046058552
SNSでも多くの情報を発信中!YouTube(@nanayoshii)、Instagram(@nanayoshii777)、X(元Twitter)(@nanayoshii777)                      
プロフィール

日経DUAL記事

教育では「昭和国」→「令和国」くらいの変革期

__吉井さんはこれまで多くの小中学校を訪れて講演してきたそうですが、どんなお話をされているのでしょうか? 
先日の小学校では、先生や保護者の方に向けて「みんなそれぞれカラフルに輝けるためのコミュニケーション」というテーマでお話をしてきました。
最近では「多様性」という言葉を耳にする機会も増えましたが、子どもたちは案外すんなり受け入れられるのに対し、大人である私たちの方が難しく考えてしまって、どうしていいかわからなかったりするんですね。教師や保護者の方の心の在り方、幸せに対する価値観についても同様です。
私はよく「昭和の時代は終わったよ!今は令和」という話をします。バブルで世界一に持って行った高度経済成長期の日本の強さ、「みんなひとつ」という教育は終わったのです。先生たちが子どもの頃が「昭和国」だったら今は「令和国」。そのくらい物事の捉え方は変わってきているんだと。ですから大人こそ学び直しが必要なんです。

自分の好きが分からない今の子どもたち

__吉井さんには毎日LINEで200件ものお悩みが子どもたちから届くそうですね。最近の子どもたちの悩みはどのようなものが多いのでしょうか?

今は昔と違ってスマホもあるインターネット社会。情報が多いからこそ他人と自分を比較して悩んでしまう子がとても多いです。たとえば、Instagramなどでインフルエンサーのキラキラした生活がいっぱい見られることで、一般人と有名人の垣根が昔よりなくなっています。
その結果、「自信がない」「自己肯定感が低い」という子が本当に多いです。ちなみに、最近ではプリクラに「自己肯定感低め」というスタンプがあって驚きましたね。ある意味「自己肯定感が低い」という言葉が「疲れた」「やる気がない」くらいカジュアルになっているとも言えます。ですから、お子さんが「自己肯定感が低い」などと言ってきたとしても、親御さんはあまり気にしなくていいかもしれません。

中高生の悩みで一番多いのは、圧倒的に「好きなことを見つける方法がわからない」です。日本人特有の謙遜の美学で、「得意(好き)と言えない大人たち」が周りに多いのも関係するかもしれません。そんな子たちへのアドバイスとしては「本当に好き」など「本当に」を外して「今、好きなこと」「今日、やりたいこと」でいいんだよと話しています。その積み重ねで自分の好きを形にしていけばいいんです。

幼少期に自分の「やりたいこと」を認めてもらえたかどうか

__「好きが分からない子たち」は、どのような幼少期を過ごしてきたのでしょうか。
性格は周りの環境から作られていくので、幼少期にやりたいことを馬鹿にされなかったか、好きなことを認めてもらえたか、はとても大きいです。
たとえば、「お母さんレゴ買って」と言ったときに、「どうせ買ってもすぐ飽きちゃうんだから」「お金の無駄じゃない」などと言われる。そうすると、子どもは自分のことを否定されて「長続きしない子」と馬鹿にされ、心がちくちくするんです。そういう経験が続くと、何も選べない子になっていきます。
「どんな服を着たい?」「何食べたい?」「好きな香りは?」、自由に選んでいいよと言っても、選べない子が本当に多いです。実はこれは先生たちもそう。
「1番人気はどれですか?」などと聞いてくるんです。個性を出して浮きたくないのは子どもも同じなんですね。

ダメを教えるのではなく「素敵」「かっこいい」で叱るといい

__たとえば、私服の小学校で派手な服を着る子が馬鹿にされた。そんなとき吉井さんだったらどんな注意をしますか?
「そんなこと言ったらダメでしょう!」と注意しがちですよね。でも、そうすると「お前のせいで怒られた」とかえってその子が浮いてしまうケースがあります。ですから、私がおすすめしているのは「そういうことを言う子はカッコ悪い(ダサい)よ」です。ダメを教えるより、素敵!かっこいい!を教える方が、言った子も傷つかないし、みんなのテンションがあがるんです。そう思うのは自由だし、着たい服を着るのも自由。どちらもダメではないんです。これは、小さい子たちにも実践できる叱り方なのではないかと思います。

自分以外のことを〇と×でジャッジしないで!

__「1組と2組の先生で言ってることが違う!ずるい!」と親に理不尽を訴える子どもに対して、吉井さんならその子にどんなアドバイスをしますか?

これもよくありますよね。でも考えてみてください。同じ会社だって部署によってやり方が違いませんか? 私は先生だってすべて統一性を持たせる必要はないと思っています。学校は社会への橋渡しですから、先生たちがそれぞれ違ったっていいんです。大事なのは「A先生はまちがってる、B先生は古い」と親がジャッジしないこと。
自分以外のことを〇と×でジャッジするのではなくて、その人のいいところを吸収する「それもOK!」の世界を大人1人1人が目指すと、子どもたちもそれを勝手にやるようになります。

「ベキネバノニノニの呪い」を自分にかけないで

__子育て中の親御さんに伝えたいことがあればお願いします。
いつもちゃんとした親じゃなくて大丈夫。それと、これは子どもたちもよく話すのですが、「何点以上とるべき」「本を買って勉強するはずだったのに……」などという「ベキネバノニノニの呪い」を自分にかけないでください。お母さんだから弱音をはいちゃいけないわけではないんです。完璧主義を外してときに、「お母さん疲れちゃった」と弱音を吐いても大丈夫! ただし、「今日はすごく疲れちゃったけど、あなたの顔を見たら疲れがふきとんじゃった」「嫌なことがあったけど、おいしいお菓子を食べたら元気になった」など、ネガティブな言葉に幸せ言葉をつけてみてください。こうすることで、お子さんも “幸せを見つける筋肉”がつくはずです。

子どもたちはお父さんお母さんの表情をすごくよく見ています。「いつも悲しそうだった」「疲れてた」と「不幸せそう」にしている親に育てられた子は、「親より先に幸せになれない」という呪いにかかっていることがあります。日々色々あると思いますが、お子さんの前では家事をしながら鼻歌を歌うような楽しそうなお母さんでいてあげてください。

わが子の不幸を勝手に決めないで!

__思春期を迎える親御さんに何かアドバイスはありますか?
「不登校=不幸」、「友達がいない=不幸」などと、わが子の不幸を勝手に決めつけないでほしいですね。「このままだとどうなっちゃうんだろう?」という不安な気持ちはとてもよくわかりますが、不幸になるわけではありません。
思春期は昆虫でいうさなぎの時期。さなぎは中で一度溶けてからちょうになるそうです。思春期の子たちも同じで、口では生意気だったとしても、メンタルは「どろどろ」。本人さえも自分がわからないのです。まずは、「あなたとことは愛しているけれど、あなたのことを全部理解できるわけじゃない」ということを伝えてあげましょう。
そして、「今は○○だけど絶対に幸せになる!」と毎日声に出して伝えて、お母さんも安心することが大切です。私自身、母親に「学校=世界のすべてじゃないから! あなたの価値は学校で決められない」と言ってもらえたのがとてもうれしかった記憶があります。お子さんを信じて味方でいてあげてください。

好きなゲームをヒントにその子の興味を伸ばせる!

__子どもたちのネットの情報やSNSとの付き合い方についてはどのようにお考えですか?
昔のひきこもりは部屋に引きこもって独りぼっちだったかもしれませんが、今の引きこもりはオンラインのチャットで、ゲームで友達を作れます。オンラインでも出会いたい人に出会って、コミュニケーションをとって、誰かの役に立ったりしているんです。
親御さんにお伝えしたいのは、「外で遊んでいる=元気」「ゲームやスマホ=不健康」という偏見を持ってほしくないということ。もちろん時間制限はあっていいですが、外で遊ぶ時間よりもゲームの時間を短くするのはジャッジが入ってしまっています。
ゲームを頭ごなしにダメにするのではなくて、「この子はゲームのどんなところにひかれているのか」という視点で、音楽、キャラクター、爽快感、その魅力はどこにあるかを調べてみてください。ゲームは人を夢中にさせる心理学を研究している人たちが作った芸術です。
そこからヒントを得てお子さんの興味の伸ばし方につなげてあげてほしいですね。

__著書にこめた想い
「未熟なまま輝く」というこの本には、人は何歳になっても未熟。そんな未熟な自分に〇をつけてあげてほしいという想いを込めています。
無理して笑顔になったり、私が頑張ればいい!ではなくて、本を読みながら深呼吸してみてください。人生に手遅れはありませんし、いつからでも幸せ持ちになれるのです。
本書にあるワークも活用しながら、幸せの基準は自分で決められる親子になれるよう、応援しています。

著者プロフィール

ライター・エディター。出版社にて女性誌の編集を経て、現在はフリーランスで女性誌やライフスタイル誌、ママ向けのweb媒体などで執筆やディレクションを手がけている。1児の母。2015年に保育士資格取得。

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